相続を「争族」にしないために(1) 家族を安心させる遺言書の書き方・選び方
公開日:2020.07.12 更新日:2021.01.03

遺言書は人生の集大成
遺言書は、これまで自分が歩んだ人生を振り返りつつ、遺す家族に想いを馳せながら作成します。
「人生最後の集大成」と言っても過言ではありません。
遺言書を作成する際は、「全ての財産を網羅する」ということが大切。
では万が一、遺言書に漏れがあった場合はどうなるのでしょうか?
相続を「争族」にしないために、遺言書の書き方と選び方を見ていきましょう。
家族を安心させられる遺言書の書き方とは?
家族を安心させるために、最も重要なのは、「全ての財産を網羅する」ということ。
漏れがあった場合、記載のない財産については、結局相続人全員が遺産分割協議で決めなければならなくなり、それでは遺言を遺した意味がありません。
万が一の漏れに備えるために、文末に「本遺言に記載のない一切の財産は〇〇が相続する」など、網羅的な条項をおいておくと良いでしょう。
同時存在の原則についても押さえておく
また相続法上では、「推定相続人又は受遺者は、被相続人の死亡時に存在しなければならない」という「同時存在の原則」と呼ばれる原則があります。
遺言者が亡くなったときに、相続人や受遺者が既に死亡している場合、その者に財産を取得させるという遺言は一部無効となってしまいます(民法994条第1項)。
こうしたことを防ぐために、財産を取得する相続人や受遺者が死亡している場合に備えて、その人たちの「補欠」を定めておくことが大切です。
少しの工夫が遺された家族を幸せにする
さらに、法定の遺言事項とは異なり(法律的な効果が生じるものではないものの)「付言事項」という、遺言者から相続人へのメッセージを残すことも可能です。
生前から家族と話し合い、よく理解を得ておくことが前提ですが、「なぜこのような内容の遺言を遺すことになったのか」といった想いや、遺言者からの相続人に対する感謝や謝罪の言葉を書き記しておくことで、遺言者の死後、家族間で生じる無益な争いを回避できる場合があります。
遺言の種類
遺言には主に、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があり、状況や目的に合わせて自分に合った方式を選択することができます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、これに押印することによって成立する遺言です。(民法968条1項)
「亡くなった人の部屋から遺言書が見つかった」など、一般的にイメージする遺言書はこの自筆証書遺言です。
遺言者が紙とペンを使い、自筆で遺言書を作成する形式で、特別な手続きが必要ないため、最も利用しやすい方法だといえます。
自筆証書遺言のメリット
- 特別な手続きが必要ないため、無料で時間と場所を問わず作成できる。
- 遺言書を書いた事実を誰にも伝えなくて良いため、他人に遺言内容を知られる恐れがない。
自筆証書遺言のデメリット
- 遺言書を個人で管理するため、偽造や隠蔽のリスクがある。
- 遺言書を書いても、発見されない恐れがある。
- 特別な手続きが必要ないため、専門家のチェックを受けていない場合、不備によって無効になる恐れがある。
- 相続人が家庭裁判所に提出して検認手続きをする必要があるため、相続人に負担がかかる。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、2人の証人が立ち会いのもと、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する遺言です。
作成した遺言書は、公証人役場で保管されます。
専門家のもと、相続人と確認を取りながら作成された上、公証人役場で保管されるため、最も確実に遺言の内容を実現できる形式です。
公正証書遺言のメリット
- 公証人が執筆をするため、内容に不備が生じる可能性が低い。
- 公証人役場で保管されるため、偽造・紛失の心配がない。
- 専門家の手厚いサポートのもと作成されるため、万が一相続で揉めた場合も、有効性が否定されるリスクが軽減される。
公正証書遺言のデメリット
- 遺言書を作成する前に、公正役場に申請をする必要があるため、手続きに手間がかかる。
- 遺言書作成に数万円単位の手数料が求められ、手数料は相続する財産額によって決定される。
(参考)手数料の目安
100万円まで→5000円
200万円〜500万円→11,000円
500万円〜1,000万円→17,000円
3,000万円〜5,000万円→29,000円
5,000万円〜1億円→43,000円
※相続財産が1億円以下の場合は11,000円が加算。
(参考:手数料|日本公証人連合会)
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が自分で用意した遺言書を2人の証人と同行して公正役場に持ち込み、遺言書の存在を保証してもらう形式です。
証人と公証人には遺言の内容は公開せず、遺言書があるという事実だけを確実にします。
自筆証書遺言と異なり、署名と押印だけ自分で行えば、後の内容はPCでの作成や他の人の代筆が認められています。
秘密証書遺言のメリット
- 手続きの際に公証人と証人に内容を公開する必要はないので、誰にも遺言の内容を知られずに遺言の存在だけを認識させられる。
秘密証書遺言のデメリット
- 誰にも内容を公開しないため、不備がある可能性がある。
- 不備があれば遺言内容が無効になることがある。
- 手続きが済んだあとは自分で保管する必要があるため、紛失・盗難のリスクがある。
- 11,000円の手数料が必要になる。
- 相続人が家庭裁判所に提出して検認手続きをする必要があるため、相続人に負担がかかる。
- 最も重要なのは、「全ての財産を網羅する」ということ
- 費用をかけたくないのなら自筆証書遺言
- 不備のないよう作成し、生前は見つからないように保管する
- 死後に発見されるように、保管場所は鍵付き金庫などがおすすめ
- 遺言書の内容を確実に実現したい場合は、公正証書遺言。一部費用がかかるが、遺言が無効になるリスクを抑えることができる。
遺言書のポイント