遺言書は万能薬ではない 本当に大切なのは…遺言に頼りすぎないこと
公開日:2020.09.18 更新日:2021.01.03

大切な家族と揉めたくない‥でも遺言書だけではダメ
相続についてインターネットで調べていると、「相続のトラブルを避けるために遺言書を遺すべき」といった記事を多く目にします。
遺言書を書いておけば、本当に相続でもめずに済むのでしょうか?
遺産相続でトラブルになりやすいケースや、遺言書の種類、遺言書でできることについて解説します。
遺言書の種類
遺言書の代表的なものには、以下の3種類があります。
それぞれの特徴や違い、メリットとデメリットを解説します。
①自筆証書遺言
遺言者本人が遺言書を作成するものを「自筆証書遺言」といいます。
遺言の内容・日付・指名を書き、押印します。
証人の必要がないため、遺言を秘密にできるというメリットはありますが、その反面、紛失や偽造の危険性や、方式不備などにより無効になってしまう可能性はあります。
自分自身で作成すれば費用はかかりませんが、遺言者の死後、自筆証書遺言書が見つかった場合は、まず家庭裁判所に検認の申し立てが必要です。
検認の申し立てとは、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための「検認手続き」のこと。
検認の申立てに必要な費用は、遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分です。
また、家庭裁判所との連絡用に郵便切手が別途必要です。
ここがポイント!
- 遺言書を法務局に預ける場合は、検認は不要です
- 遺言書を法務局に預ける新制度「遺言書保管法」がスタート!メリットは?解説は[ こちら ]
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申立書や提出した書類に不備がなければ、申立てから約1カ月後に家庭裁判所から相続人全員に検認の期日が郵送されます。
②公正証書遺言
本人が口述し、公証人が筆記するものを「公正証書遺言」といいます。
印鑑証明書・身元確認の資料・相続人等の戸籍謄本、不動産がある場合は登記簿謄本等が必要になります。
自筆証書遺言とは異なり、偽造される危険性は極めて少なく、証拠能力も高いですが、
下記デメリットもあります。
- 作成手続きが煩雑になりやすい
- 遺言を秘密にできない
- 費用がかかる
また、作成時に証人として2人以上の立会いが必要です。
検認手続きは不要です。
③秘密証書遺言
本人が作成した遺言書に署名捺印をし、遺言書に使用したものと同じ印で封印をします。
そして、公証人に「この遺言書は遺言者のものである」という確認を封筒に署名してもらう方法です。
遺言書の存在が明確であり、偽造の危険性は極めて低くなります。
また遺言の内容も秘密にできます。
デメリットとしては、作成の手続きが煩雑になりやすいことや、証人が2人必要なこと、本人が亡くなった際には検認手続きが必要となること、公証人の費用がかかってしまうことが挙げられます。
遺産相続でトラブルになりやすいケースと、その対策法
①相続財産に不動産が含まれている場合
遺産の中に不動産が含まれているケースは非常に多いです。
国税庁の平成24年度のデータによると、
遺産の中で、土地は45%、家屋は5%程度となっており、不動産が遺産の半分以上を占めています。
また、不動産にまつわるトラブルの多くは「たった1つの実家の土地建物」の場合がほとんどで、
分割方法や評価方法でもめることが少なくありません。
有効的な対策は…まずは「遺言書を遺す」こと
遺言書があれば、遺言内容が優先されるため、相続人たちが遺産分割の方法を決める必要がありません。
そのため、トラブルの火種を極力なくす&回避することに繋がります。
②親と同居していた相続人がいる場合
親と同居していた相続人がいる場合、その相続人は親の介護をしていたり、親の事業を手伝ったりしていることが多く、
親の預貯金を管理している場合も少なくありません。
親と同居していた相続人は、「親の面倒をみていたのだから、自分の遺産取得分を増やしてほしい」と考えがちですが、
一方、同居していない相続人は、「同居していたのだから、家賃も要らなかったし、生活費を出してもらっていたのだろう」などと考えるため、
同居の相続人の法定相続分を増やすことには同意しない場合が多いのです。
有効的な対策は…「遺言書」に相続方針を明確に記載しておくこと
同居していない相続人の遺留分を侵害しないように注意しながら、
遺言によって同居の相続人の相続分を多くしておくなり、法定相続分通りに分割するなり、明確に記載して遺しておけば、
トラブルには発展しにくいでしょう。
③子どもがいない夫婦の場合
子どもがいない夫婦の場合、第2順位の法定相続人である「親と配偶者」が相続をすることになりますが、
配偶者と親のそりが合わない場合などには、相続がトラブルのきっかけになってしまいます。
親が既に亡くなっている場合は、配偶者と故人のきょうだいが相続人です。
この場合も、配偶者と故人のきょうだいはもともと疎遠である場合が多く、スムーズに遺産分割を進めにくくなります。
故人のきょうだいが先に亡くなっていた場合は、代襲相続によって故人のきょうだいの子どもたちが共同相続人になり、
生前ほとんど関わりのなかった甥や姪と配偶者が遺産分割を進めることです。
有効的な対策は…「遺言書」に、配偶者への遺産相続分を明記すること
配偶者にすべての遺産を遺す内容を、遺言書に明記することが良いでしょう。
故人のきょうだいやその甥姪(代襲相続人)には遺留分がないので、配偶者ときょうだい(甥姪)が相続人になる場合には、
遺産の全部を配偶者に分与する内容としても問題ありません。
しかし、親には遺留分があるため、親がいる場合は、親の遺留分を侵害しない内容にしておく必要があります。
遺留分とは、きょうだい以外の法定相続人に最低限保障された相続財産の割合のことです。
遺留分が民法に定められていることにより、
遺言書による遺産の分配方法が一定の限度で制限されることになります。
一方で、必ずしも遺留分に沿って相続しなければならないわけではなく、
遺留分を持つ相続人が遺留分侵害額請求権を行使した場合に初めて、金銭を支払う義務が生じます。
④遺言書があっても遺留分について考慮されていなかったり、不備がある場合
遺言書の形式が無効な場合や不備がある場合は、遺言書が無いものと同じになってしまいます。
また、遺留分を無視した内容になっている場合も、トラブルに発展する可能性が高まります。
遺留分より著しく少なくされたり、他の相続人に偏ったりしていると、少なくされた相続人は複雑な気持ちになるでしょう。
相続人ではなく、「第三者に遺産を全部遺贈する」「特定の相続人のみに相続させる」など、明らかに内容に偏りがある遺言書が遺されている場合も、トラブルが起こりやすくなります。
さらに、何度も書き直したことにより、遺言書が複数見つかる場合もあります。
この場合は最も日付が新しいものが優先されますが、相続人たちにとって混乱のもととなることは確実です。
有効的な対策は…遺産相続の専門家に相談すること
「相続トラブルを防止するための遺言書」によって家族がもめるのでは、遺言書を遺した意味がありません。
遺産相続の専門家に相談し、形式的にも内容的にも間違いのない遺言書を作成することが、
相続トラブルを防止する最善策と言えます。
まとめ:遺言書で実現できること
(1)遺贈に関する事柄
- 相続人以外または特定の相続人に特定の相続財産を相続させる
- 遺言内容を実現するための遺言執行者の指定
- 遺留分減殺請求に対する減殺方法の指定
(2)相続に関する事柄
- 法定存続分と異なる相続分の指定
- 不適切な相続人の廃除、または相続廃除の取消
- 5年以内の遺産分割の禁止
(3)身分に関する事柄
- 子の認知
- 未成年者の後見人等の指定
遺言書のメリットとデメリット
遺言書のメリット
- 遺族の争いを防止することができる
- 本人の意思で、遺産を分割することができる
- 自分の子や配偶者以外にも、財産を遺すことができる
- 遺産の分割だけでなく、遺族に感謝や想いを伝えることができる
遺言書のデメリット
- 専門家が関与しないで作成された遺言書の場合…記載内容に不備があり、かえって手続が複雑化したり、表現が曖昧なため、解釈を巡って遺族間でもめる恐れがある
遺産相続でトラブルになるのを防ぐには
望まない争族を防ぐために、専門家による相談会を活用しながら遺言書を作成することも重要です。
また、自分が認知症になってしまったときに備え、信頼できる人に財産管理をしてもらえるよう任意後見契約を締結したり、
より柔軟な対応が可能な家族信託を利用するなど、終活も含めて本人がしっかりしているうちから十分な財産管理をすることもポイントになります。
それと同時に、家族や親族とは日頃からコミュニケーションを取っておき、遺言の存在やその内容を知らせておくことが大切です。
子どもが複数いる場合は、平等に情報を伝えるよう心がけると良いでしょう。